『40歳の壁』を書け上がる!~30代フリー書籍編集者小田の戦術ノート~

ライターの多くがぶつかる『40歳の壁』。ライターから書籍編集者へとシフトしながら壁を駆け(書け)上がる30代の生き様を綴ります。

孫子の兵法に学ぶ執筆術

恥ずかしながら、私はこの年になるまで「孫子」を精読できていませんでした。
 
学生時代は、多くの同世代と同様に三国志にハマり、
いわゆる孫子の兵法については、有名どころをおさえることはできていたのですが、
全体を俯瞰して内容を把握することができなかったのです。
 
そこで今回は、以前にも手にした「NHK100分de名著」シリーズから入ることにしました。

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◆着目したのは「勢い」について

 
故に善く戦う者は、之を勢に求めて、人に責めず
(巧みに戦う者は、集合体としての軍勢によって勝つのであり、特定の人物の力量に頼って勝つのではない)
 
上記はテキストで引用されていた一文です。
戦いは複数の人間が団結したエネルギー、勢いで勝つということですね。
これが孫子を読む上でおさえたいポイントなのだと思います。
 
さて、私が表題に記した「勢い」とは団結力をさすものではないのですが、
次の一文が気になりました。
 
円石を千仞の山に転ずるが如き者は勢なり
(千仞の高い山から丸い石を転がす。それが勢いというものだ)
 
よく原稿を書く方なら実体験されていると思うのですが、
物を書くには、元になる情報を得ることが不可欠。
 
そして、その情報のボリュームが大きければ大きいほど、
書く勢いが増し、スピードが加速するものです。
 
私も10年来、物を書いてきましたが
自分で納得できるまで取材した記事、長く思索を重ねて想いが強まったコラムなどは
キーボードを打ち始めるとともに、
頭から言葉があふれ出てくると思うほど次々に言葉が浮かび、
息をすることも惜しい気持ちになることがあります。
 
こうした状態にあっては書き進める勢いも強く、
短時間で一気に長文を書き上げてしまうこともしばしばです。
 
 

◆円石=情報、山の高さ=思索時間

 
私が引用した一文に当てはめると、
円石は情報の量や密度、山の高さは思索する時間だと思いました。
これが組み合わさった時、先のような体験ができるのです。
 
もちろん、物書きは「何があっても書く」のが仕事ですから、
取材ができなくとも、資料や公開情報、ネット上など限られた範囲から最大限の情報を集めます。
また、原稿を組み立てる時間がなくとも、書きながら構成を練り、最終的には納期に間に合うよう取り組みます。
 
ただ、明確に言えることは、
勢いある原稿はそのクオリティも高く、読んでいて面白いと多くの人が感じることでしょう。
一方で、勢いが弱かったり、無理に勢いをつけて書いた原稿は、
話の筋は通っていても、惹きつけるような内容まで高めることは難しいのです。
 
こうした体験もあって、私自身が仕事を受注する時には、
編集やクライアントに情報をできる限り多く、提示してもらえるようお願いをします。
また、納期に融通が効く場合は、思索時間を確保して
ストーリーを頭に思い浮かべてから書くようにしています。
 
勢いある原稿を書く。
そして、勢いの源になる「情報」と「思索」を大事にする。
簡単ながら、これが私なりに孫子から学んだ執筆術です。